SLE光線過敏症におけるDNA修復酵素XPD,XPGの
機能解明
代表者 杉野英彦
大阪大学・生命機能研究科
研究者番号:70270577
研究課題番号:80273663

研究課題基本情報(最新年度)

研究期間:2010年度〜2012年度
研究分野:膠原病・アレルギー内科学
審査区分:一般
研究種目:基盤研究(C)
研究機関:大阪大学

研究概要(最新報告):
 全身性エリテマトーデス(SLE)は代表的な全身性自己免疫疾患である。発症の根本的な原因はもとより病態についても不明な点が多い。そこで本研究ではSLE患者に特徴的な光線過敏症の発症の分子メカニズムを明らかにする。これまでに我々は、SLE患者21人と健常人45人の末梢血で発現している遺伝子について、DNAマイクロアレイによる網羅的解析を行った。興味深い事に主要なDNA修復酵素であるXPD(ERCC2), XPG(ERCC5)がSLE患者において、顕著でかつ高い信頼性を持って低下していることが明らかになった。さらに解析を進めた結果、ミトコンドリアDNAにコードされる分子群(ATP6, COX1, COX3, CYTB, ND1, ND2)の有意な低下がSLE患者群で見出された。XPD, XPGはATP依存性のDNA修復酵素である。そのため、ミトコンドリア分子群の発現低下は、XPD, XPGの機能低下をもたらす事が予想される。XPD, XPGは色素性乾皮症、コケイン症候群、硫黄欠乏性毛髪発育異常症などの責任遺伝子である。また共通病態として光線過敏症を発現する。をそこで、これらの分子群について、光線過敏症との関連について検討した。

今回、光線過敏症の病歴があるSLE患者群(19人)と、病歴のないSLE患者群との間で、ミトコンドリアDNAにコードされる遺伝子群と、DNA修復酵素との遺伝子発現の比較をDNAマイクロアレイで解析した。いずれの患者群でも、ミトコンドリア遺伝子群とDNA修復酵素の低下は見ちれた。しかし光線過敏症の病歴を有する患者と有さない患者との間で、有意差は認められなかった。今後、光線過敏症が生じている状態と落ち着いている状態とを比較する必要がある。また、皮膚組織での検討が不可欠である。現在、皮膚組織からのpurityの高いRNA抽出の検討を行っている。

リンク先
https://kaken.nii.ac.jp/d/p/22591075.ja.html

研究目的

1.全身性エリテマトーデス(SLE)は代表的な全身性自己免疫疾患である。発症の根本的な原因はもとより病態についても不明な点が多い。そこで本研究ではSLE患者に特徴的な光線過敏症の発症の分子メカニズムを明らかにする。

2.これまでに我々は、SLE患者21と健常人45人の末梢血で発現している遺伝子について、DNAマイクロアレイによる網羅的解析を行った。興味深い事に主要なDNA修復酵素であるXPD(ERCC2), XPG(ERCC5)がSLE患者において、顕著でかつ高い信頼性を持って低下していることが明らかになった。

3.同様の光線過敏を発症する、色素性乾皮症、コカイン症候群そして硫黄欠乏性毛髪発育異常症もXPD, XPGが原因遺伝子であることを考えると、SLEにおける光線過敏とXPDとXPGの発現低下との関連性が示唆される。

?研究の学術的背景
全身性エリテマトーデス(SLE)は、蝶形紅斑や光線過敏症などの皮膚病変や関節炎、ループス腎炎、中枢神経症状(CNSループス)、びまん性肺胞出血、肺高血圧症、血液障害、抗リン脂質抗体症候群などの様々な自己免疫異常を引き起こす、多臓器疾患である。SLEの病因はもとより病態についても不明な点が多いが、発症には遺伝的背景を加えて環境因子の関与が考えられる。

 SLEの遺伝的要因は2005年以降、SNP解析を中心としたヒトゲノム解析研究の結果、現在までに12個のSLE感受性遺伝子が見出されている(1)。これらの中でも、HLA領域遺伝子群、STAT4、IRF5がヨーロッパ系集団で抽出され(2,3)、機能的にSLEとの病態との関連性を説明し易くかつ、複数の報告で再現性が認められているので信頼度の高いSLE感受性遺伝子と考えられている。一方SNPを中心としたゲノム解析研究だけでは見出せないSLE感受性遺伝子も多く存在すると考えられる。そこで他の研究アプローチが必要である。

 我々は、SLE患者21人と健常人45人の末梢血で発現している遺伝子の発現を、DNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析し、SLE患者群で異常発現している遺伝子を抽出した(4)。抽出された遺伝子に対してEASE解析、オントロジー解析、ネットワーク解析を行ない、その中から信頼度が高くかつ、これまで指摘されていない遺伝子の異常発現に着目した。その結果、SLE患者群で正常人と比較して、遺伝子修復酵素XPD(ERCC2)とXPG (ERCC5)の発現が有意に低下していた。

 XPDとXPGは転写に共役した修復(TCR; Transcription coupled Repair)酵素である。すなわち細胞の複製に関わらず、DNAの損傷を修復できる。XPD、XPGは共に、11個のサブユニットからなる基本転写因子TFIIH複合体の一部である。 XPDは損傷した領域の二本鎖DNAを二本の一本鎖DNAへ開裂するATP依存性ヘリカーゼ活性を有する(5,6)。ヒトXPD遺伝子における変異は3種類の異なる遺伝子疾患を引き起こす。色素性乾皮症(XP)、色素性乾皮症とコケイン症候群の合併症(XP/CS)、硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD)である(7)。これらの疾患は発癌性、老化促進性、神経障害などの病状は異なるが、光線過敏を示すという点では共通である。最近、XP, XP/CS, TTDと相関あるアミノ酸置換の位置が、XPDの立体構造解析の結果明らかにされた(XP:8ヶ所、 XP/CS:4ヶ所、 TTD:14箇所)。ほとんどがATP結合領域あるいはDNA結合領域に存在していた。隣接した位置に存在する変異でも病態は異なる(8)。XPGもXPDと同様TFIIH複合体の一部である。その詳細な機能も最近になって明らかにされた。XPGはTFIIH複合体の安定化に寄与している。したがって変異型XPGはTFIIHを安定化できず、複合体はばらばらになる。その結果、DNAの転写依存性の修復に異常をきたし、XPあるいはXP/CSを引き起こす(9)。

 DNA修復機能が大きく低下すると、通常のアポトーシスで処理できないDNA損傷を受けた多くの細胞が蓄積し、異常なアポトーシスが引き起こされる(10,11)。近年、アポトーシス細胞の貪食異常によりDNAの分解異常がSLE様の病態を引き起こされることがマウスモデルによって明らかにされた(12)。 

 アポトーシス細胞のDNA分解異常の増加により、血中内ヌクレオソームが急増し、それらが強い自己抗原となり抗DNA抗体等を生成しSLEを発症することが示唆されてきた(13,14)。一方、SLEの患者ではDNA修復能が低下していることを示唆する報告が存在する。SLE患者のリンパ球では自発的DNA一本鎖切断と酸化的DNA損傷が健常人より増加している(15,16)。小児SLEのリンパ球にγ線照射すると、正常小児のリンパ球よりDNA損傷が増加する(11)。さらにSLE患者の好中球に酸化ダメージを与えても、ほとんど修復は行われない(17)。これらの報告はSLE患者におけるDNA修復機能低下を強く示唆する。そこで我々はDNA修復酵素、特にXPDとXPGの発現低下あるいは機能低下が、SLEの光線過敏発症をはじめとする種々の臓器病変の出現の原因になっているのか否かを検討する。

?研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか。
1. SLE患者由来の末梢血リンパ球のDNA修復能を検討する。この際、光線過敏の発症歴のあるものとないものとの比較を行う。さらに光線過敏症の出現時と非出現時での比較も行う。前者の結果からは、DNA修復酵素とSLEの光線過敏症との関係が明らかになる。また後者の結果からはSLEにおける光線過敏症が、DNA修復酵素の遺伝的素因に起因するのか、あるいはDNA修復酵素発現制御メカニズムに起因するのかが明らかにされる。

2.1でDNA修復酵素とSLEによる光線過敏症との関連性が示唆されれば、その修復酵素がXPDあるいはXPGなのかを、発現量が減少しているか否かで検討する。もし光線過敏症を併発したSLE患者で、併発していないSLE患者よりXPD, XPGの発現量のさらなる減少が観察されれば、XPD、XPGとSLEにおける光過敏症との関連性が示唆される。

3.光線過敏併発のSLE患者由来のリンパ球に、正常型XPD,XPGを発現させ、DNA修復機能回復を検討する。

4.健常人由来のリンパ球にXPDまたはXPGの発現を抑制するsiRNAを導入し、アポトーシスが正常に起こるのかを検討する。さらにアポトーシス異常で死んだ細胞由来のヌクレオソームが培養上清に出てくるか否かを検討する。さらにマウスを用いた実験を行う。XPD, XPGの発現を抑制するsiRNAアデノウイルスを作製し、マウスへ尾静脈注射により投与する。その結果、抗DNA抗体、抗ヌクレオソーム抗体が産生するか否かを検討する。さらにパーティクルガンを用いてsiRNAをマウス表皮に直接導入し、その部位に対してUV-Bを照射し光線過敏症が発症するか否かを検討する。

?当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点と予想される結果と意義
SLEにおける光線過敏症の原因ならびに病態は明らかにされていない。環境・遺伝的因子を含んだ多因子性であると考えられえている。しかし今回我々が行ったSLE患者21人、健常人45人の末梢血を用いた遺伝子発現の網羅的解析と、その後のEASE解析、オントロジー解析の結果、遺伝子修復酵素XPDとXPGの発現低下が明らかになった。遺伝子修復酵素の発現低下とSLEあるいはSLEにおける光線過敏症との関係は今だ報告されていない。XPDとXPGはXP, CS, TTDの原因遺伝子であり、その原因となるアミノ酸置換を伴う遺伝的変異アリルを多く持つ。またアミノ酸置換を伴わないSNPを有する変異アリルも多く存在する。これらの変異アリルが発現調節領域でXPD, XPGの発現を抑制しているのかもしれない。発現抑制アリルが明らかになれば、遺伝子診断による光線過敏症、さらには光線過敏症によって惹起されるSLEの予防が世界ではじめて可能になる。

[参考文献] (1)Crow M et al N Engl J Med 358:956-961 2008 (2)Hom G et al N Engl J Med 358:900-909 2008 (3)SLEGEN et al Nat Med 40:204-210 (4) Lee H et al Arthritis Res Ther 11:1-10 2009 (5)Friedberg EC et al Cell 71:887-889 1992 (6)Sung P et al Nature 365:852-855 1993 (7)Cleaver JE et al Hum Mutat 14:9-22 1999 (8)Fan L et al Cell 133:789-800 2008(9)Ito S et al Mol Cell 26:231-243 2007(10)Herrick AL et al Lupus 4:423-424 1995 (11)McCurdy D et al Radiation Res 147:48-54 1997 (12)Yamaguchi H J Leukoc Biol 83: 1300-13007 (13)Bruns a et al Arthritis Rheum 43:2307-2312 2000(14)Koutouzov S et al Rheumatic Diseases Clinics of North America 30 529-558 2004 (15)Benke PJ et al Metabolism 40:1037-1042 1991 (16)Bashir S et al Ann Rheum Dis 52:659-666 1993 (17)MacConnell JR et al Clin Exp Rheumatol 20:653-660 2002

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